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東京高等裁判所 昭和56年(ツ)17号 判決

上告人 若井慶雄

右訴訟代理人弁護士 小畔信三郎

被上告人 勝又政男

右訴訟代理人弁護士 栃倉光

主文

原判決を破棄する。

本件を新潟地方裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人小畔信三郎の上告理由第一点について

原判決挙示の証拠関係によれば、本件建物は、被上告人が訴外若井朝則から代金六〇万円で買い受けたものであり、右売買が両名の通謀虚偽表示であるとは認められないとした原審の認定は正当として是認することができ、右認定及びこれに至る過程に所論の違法はない。また、原審における被上告人本人の尋問は、上告人がそれによって証明しようとした事実もしくは重要な争点に関する唯一の証拠方法ではないから、原審がその尋問申出でを採用しなければならないものではない。論旨は、原審の専権に属する事実の認定を非難し、また、証拠の採否に関する原審の裁量権行使を攻撃するにすぎないものであり、採用することができない。

同第二点について

一般に、建物の使用貸借において、当該建物の種類が居宅である場合には、特段の事情がない限り、その使用貸借は、居住を目的とするものであると認めるのが相当であるから、訴訟における攻撃防禦方法として、居宅使用貸借成立の事実が主張されたとき、通常、右主張には、該契約が居住を目的とするものであるとの主張が含まれているものと解すべきである。

いま、本件についてこれをみるのに、係争建物が居宅があることについては当事者間に争いがなく、上告人は、抗弁として、これを被上告人から無償で借り受けた旨主張しているにもかかわらず、原審が、特段の事情の有無について審究すことなく、ただ漫然と、上告人主張の使用貸借は使用・収益の目的の定めのないものであると断定して、上告人の右抗弁を排斥したことは、上告人の主張の趣旨の解釈を誤ることによって、審理不尽、理由不備の違法を冒したものといわなければならない。

それ故、論旨は、理由があり、原判決は、そのままでは破棄を免れないので、この点につき、さらに審理させるため、本件を原審に差し戻すこととする。

よって、民訴法四〇七条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡部吉隆 裁判官 蕪山厳 安國種彦)

〈以下省略〉

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